
Sand Art
-FIRST STORY-
それは20代の男女の物語。ぼくらの3年間はマリンタワーから始まった。
あれから3年、一度も喧嘩をすることなく、
最初のデートで訪れたマリンタワーへと再びやってきた...


まるで世界樹のように。
横浜マリンタワーは多くの物語を
見守っている。


土曜日の昼下がり
元町・中華街駅で待ち合わせ。
それが僕らのファーストデートだった。


二人で丘を上り
山手にあるカフェを訪れる。
アフタヌーンティーの美味しさと
クラシカルで落ち着く雰囲気に会話が弾み
僕らの距離を近づけてくれた。


山手をくだる坂道の向こうに
横浜マリンタワーの姿が見えた。
手を繋ぐ勇気を出せず
「マリンタワーに行こうか」
そう、言葉で間をつないでしまった。


本当は
ファーストデートはマリンタワーだと決めていた。
展望台から見える夕焼け空とベイブリッジ。
僕らは、どちらからともなく
いつの間にか、自然と手を繋いでいた。


山下公園でピクニック。
オータムローズを愛でに
港の見える丘公園のローズガーデンへ。

バラの香りに包まれて
僕らははじめて
キスをした。



ホテルニューグランドの中庭のイルミネーション。
君が強く握りしめた
最初の手の感触
決して忘れることはないだろう。




共に重ねた
季節の数だけ
僕らの思い出はふえてゆく。
少しづつ
ゆっくりと
深まる愛を
たしかめるように。
-SECOND STORY-
銀婚式を迎える50代の男女の物語。
私達は、マリンタワーのバーで、お酒を楽しんでいた。
結婚をして25年、銀婚式の記念の指輪を、妻に贈る。
「まるで、もう一度結婚したようだわ。」
君は、あの頃のような初々しい照れ笑いを浮かべた。

横浜マリンタワー物語~THE TALE OF YOKOHAMA MARINE TOWER~
◇SECOND STORY◇



マリンタワーのバーで乾杯。



銀婚式のお祝いに
セカンドマリッジリングを。
「まるで、もう一度結婚したようだわ。」
君は、あの頃のような
初々しい照れ笑いを浮かべた。
「プロポーズも、ここだったわね。」


当時、マリンタワーは
まだ灯台でもあった。
あの時代の思い出が、
走馬灯のように蘇る。


マリンタワーの展望台で、
高すぎると怖がって
君はしがみついてきたね。
「本当に怖かったんだから」



マリンタワーのレストランで
君はフォークを落としてしまい
食べさせてあげたね。
「あれは恥ずかしかったわ」
今となっては全てが笑い話だ。




「あれ、覚えてる?」
忘れるはずがない。
誕生日プレゼントの帽子。
ロイヤルウィングのアフタヌーンティーを食べ終え
オープンデッキに上がった時に
風のいたずらで
帽子が飛んでしまったこと。



あの奇跡が
勇気を与えてくれた。



ベイブリッジの下で
はじめてのキスをした。
-THIRD STORY-
とある家族の物語。
父と母は、幼い僕をマリンタワーによく連れていってくれた。
館内のレストランで、たまに一人で訪れて、ハンバーグを食べている。
その度に、涙でしょっぱい味になってしまう。
母がハンバーグをナイフで切り分けてくれたことを、今でも忘れてはいない。
はじめての展望台で観た景色の感動は、今でも忘れられない。


横浜マリンタワー物語~THE TALE OF YOKOHAMA MARINE TOWER~
◇THIRD STORY◇
母と父は、
幼い僕をマリンタワーに
よく連れていってくれた。


館内のレストランで、
たまに一人で訪れて、
ハンバーグを食べている。
その度に
涙で
しょっぱい味になってしまう。

母がハンバーグを
ナイフで切り分けてくれたことを、
今でも忘れられない。


はじめての展望台フロアで
観た景色の感動は、
今でも忘れられない。
父が肩車をしてくれて、
もっと高い位置から
横浜の景色を見れたんだ。


父は、マリンタワーで
母にプロポーズしたんだと、
何度も僕に話してくれた。
今思えば、つまらないことで
喧嘩をしてしまったなと思う。
僕が同じようにマリンタワーで
プロポーズしたのは、
父への想いがあったんだと思う。


そんな僕が今は、
父親になった。


母と妻のはからいで、
僕ら家族は、マリンタワーで
再会することになった。
はじめて孫を抱いた父は、
涙を流していた。
父の手に、
しわが増えていた。
あふれる涙を
こらえきれなくなった。

母が、昔のように
僕のハンバーグを
切り分けてくれたのは
恥ずかしかったけれど…


それなのに…
ハンバーグを一口
ほおばった瞬間
涙が溢れてしまった
やっぱり
涙でしょっぱかった。